心臓の音
夜、眠るとき。
うつ伏せになって、左耳を枕に当てると聞こえてくる。
生きているのか、死んでいるのか分からなくなる時。
ちゃんと生きてるよって教えてくれる。
呼吸をするのが苦しくなったら目を閉じて、この音が途絶えた時を妄想する。
きっと周りは喜んで、笑顔が溢れて、肩の荷が下りて。
何事もなかったと世界は廻る。
それっぽっちの小さな鼓動。
それだけで安堵して涙が溢れてくるんだ。
ちゃんと"終わり"はやってくるんだと、教えてくれる優しい音。
私と共に生きてくれている、歩んでくれる力強い音。
自分が何者で、何のために存在し、何を成していくのかなんて。
意義も理由も大義名分なにもないけど、今はこの音だけあれば良い。
どんなに辛くても、悲しくても。
苦しいときも決して離れず傍にいてくれる。
独りじゃないと、共に歩んでくれる音。
いまはまだ、たった一つの音だけど。
いつか同じように苦しんだ貴方と響かせて歩けたら良い。
そうして並んで、輪が広がって。
「生まれてよかった」と思えたならば、それはどんなに幸せだろう。
心から笑いあえる仲間と時間を過ごせたら良い。
泡沫にそんな夢を見ながら、眠りの中に堕ちていく。